ニューヨークなどの東海岸では派手にアドリブを演奏するビバップが大流行していたが、ロサンジェルスを中心にした西海岸ではアンサンブル重視の演奏が持て囃されるようになった。
西海岸で活動するミュージシャンは、映画やスタジオの仕事が多いことから譜面に強い。そこで彼らはちょっとしたジャム・セッションを行なうにも、アドリブを羅列するビバップとは違う、アレンジの施された演奏をしたのである。それが1950年代なかばからウエスト・コースト・ジャズと呼ばれるようになった。
★キーパーソン:チェット・ベイカー
ウエスト・コースト・ジャズの芽生えは、ニューヨークで活躍していたマイルス・デイヴィスの演奏に端を発する。彼はビバップの中心人物のひとりだったにもかかわらず、派手なアドリブ合戦を好まず、繊細なプレイときちんとしたアレンジを重視していた。
しかし、当時のニューヨークでそれは受けない。ところがそうしたスタイルで吹き込んだ『クールの誕生』が西海岸のミュージシャンを触発。
中でも同じトランペットを吹くチェット・ベイカーは、“ジャズ界のジェームス・ディーン”に例えられるほどのルックスと、マイルス譲りの知的でクールなプレイによって映画スター並みの人気を博す。
その人気をバック・ボーンにして、彼を中心にウエスト・コースト・ジャズが一大勢力としてシーンを席巻したのは1950年代なかばから10年間ほどのこと。