封切初日の昨日、この映画を観てきました。小説も何度も読みましたし、昔作られた映画も観ています。何度かテレビ化もされているのでそれらもたいていは観ているんじゃないかしら。なにせ清張ファンですから。彼の小説は文庫になっているものならほぼ全部読んでるでしょうね。
って、自慢しても仕方ないですが、この映画、過去の映像作品の中では一番豪華な作りだったかもしれません。清張といえば社会派ミステリーの代表格です。この話も、戦後の混乱期の世情が背景にあります。ぼくはこの時代をテーマにした映画やテレビ・ドラマをいろいろ観ていて、服装に違和感を覚えることが多いです。
ぼくが小学校低学年のころの時代の話です。この時代に市井のひとたちがこんなにばりっとした服を着ていた記憶がないんですね。どちらかといえばボロに近い服装のひとが多かったです。ところが、登場人物はいずれもきれいでちゃんとデザインされたスーツや服やコートを着ています。色もきれいなものばかり。お見合いの席で主人公の男性が着ていた深い切れ込みのセンターベンツなんてあの時代にあったでしょうか? 映画だから視覚的要素も重要ですが、ぼくはそういうところが気になります。
自分のことを振り返って一番共鳴できたのは『三丁目の夕日』ですね。あの映画に出てくる子供たちの薄汚れた感じ。ぼくと同じ歳ごろの子供たちですが、ぼくもあんな感じでした。医者の息子で、平均よりは少し上の生活をしていたかもしれません。それでもあんなものでした。だって、お金があったって、そんないい服なんかほとんど流通していなかったんですから。
物がなかった時代です。その時代に育ったぼくとしては、どうも服装が気になって気になってしかたありません。でも、そんなことは瑣末なことでしょう。悲しい映画です。自分ではどうしようもできない人生の流れ。
ぼくだって思いもよらぬことの積み重ねでいまの生活があります。いいほうに転ぶこともあれば悪いほうに転ぶこともあります。そこが人生です。この映画の主人公は、戦争の不幸を背負い、それでも健気に生きてきたんだと思います。しかし誤解や引け目やさまざまな思いが交錯し、自分たちの人生が翻弄されます。
それを思うにつけ、いい時代に生まれたことを実感しました。服装がどうだとかこうだとか言えることだって、幸せな時代に生きているからこそでしょう。経済は最悪かもしれません。そこから引き起こされる悲劇がドミノのように広がっているのもわかります。それでも、戦争のない国に生きている幸せをかみ締めたいと思います。