先週の金曜日ですが、ハンク・ジョーンズのインタヴューをしてきました。今年92歳になるハンクさん、とっても元気です。若さの秘密は? の質問に「わたしは酒もタバコもやらないし、もちろんドラッグもね」とのこと。
耳も遠くないし、視力も衰えていません。「Jazz Conversation」のインタヴューということで、リスナーのプレゼントにサインをもらったのですが、めがねもかけずにスラスラ書いてくれました。
ハンクさん、好物はオリーヴみたいです。大量のオリーヴが楽屋に届けられていました。そのあたりも健康の秘密でしょうか? あとはよく寝ること。日本に来るフライトではどう過ごされているのですか? 「寝るようにしている。眠たくないときは、つまらなそうな映画を観るといいよ。眠くなるから(笑)、これオススメ」
記憶力もたしかです。いまやチャーリー・パーカーと共演したことのある数少ないひとりがハンクさんです。パーカーとの思い出もはっきり覚えていました。そのあたりはそのうちラジオで紹介できると思います。
それにしても、ハンクさんはすごいです。話していて、ちっとも年齢を感じさせません。ぼくは職業柄、たくさんの高齢の方と接しています。さすがにハンクさんの年齢のひとは少ないですが、そういうひとの中ではダントツに若いですね。物腰、話し方、記憶力、どれひとつとっても、(こんな言い方をしては失礼と思いますが)「老人」と話している感じはしません。
声をとくに大きくして話す必要もありませんし、聞けば返事がすぐに戻ってきます。ぼくが、「ニューヨークから東京までの14時間~」といったときなど、即座に「13時間だよ」と訂正してくれたほどです。
ハンクさんはとてもおしゃれです。この日はタキシード姿でした。タキシードのボタンが取れてしまったことを気にしていて、スタッフに細かく注文を出していました。こんなところにも若さを保っている秘訣があるのかもしれません。そういえば肌もツヤツヤです。「額がテカってやなんだよ」なんて冗談をいいながら、タオルで何度か拭いていた姿もチャーミングでした。
ステージでも元気いっぱい。「リコーダ・ミー」、「ダーン・ザット・ドリーム」、「ニカの夢」、「カンタロープ・アイランド」、「サヴォイでストンプ」など、お馴染みの曲を立て続けに演奏し、アンコールは「オレオ」、それでも拍手が鳴り止まず、ついにはスタンディング・オヴェーションを受けて、今度はソロ・ピアノで「イン・ア・センチメンタル・ムード」を披露。この美しい響きは、この夜の演奏でもっとも心を打たれました。
ハンクさんはとっくの昔、ぼくの個人的な思いをいうなら、若いときからすでに円熟味に溢れたプレイをしていました。それがさらに年輪を重ね、いまでは誰も真似できないしっとりとした、それでいていかにもこのひとらしい紳士然とした表現を聴かせてくれます。聴いていて穏やかな気持ちにさせてくれるのがハンクさんのプレイです。インタヴューからもそんな人柄が伝わってくると思います。そういうわけで、この日はいつになくすがすがしい気持ちで「ブルーノート東京」をあとにしました。