
本来ならステージにベースのロン・カーターとデュエットで立っていたのはジム・ホール。このギターの巨匠が永眠したのは昨年12月10日のことでした。
悲報を受け、共演者にして盟友のロン・カーターは来日公演を親しい友人でもあったホールに捧げるステージにしようと即座に決断したのです。しかし時間はあまりありません。一時は中止になるかとも危惧されたのですが、ホールの死から24時間もたたないうちにラリー・コリエルとピーター・バーンスタインの参加が決まりました。
ぼくが観たのは初日のファースト・ショウ。場内はエクストラ・シートが用意されるほどの盛況でした。
カーターを中心に、向かって左にコリエル、そして右にバーンスタインが並びます。3人ともダーク・スーツで、これはホールへの敬意を表したのでしょう。もっともカーターはいつもスーツ姿ですが。
ステージではそれぞれのギタリストによるソロ・パフォーマンスをはさみ、ホールがカーターとのデュオで演奏した愛奏曲が次々と披露されました。カーターはホールの死を悲しみつつ、故人を忍ぶエピソードもところどころで紹介し、ステージを淡々と進めていきます。

ホールが海洋学者のクストーによるドキュメンタリーが好きだったと語りながら演奏した〈ハウ・ディープ・イズ・ジ・オーシャン〉、あるいはビッグ・バンドが好きだった彼を思ってトミー・ドーシー楽団のテーマ曲だった〈アイム・ゲッティング・センチメンタル・オーヴァー・ユー〉を取り上げるなど、大上段に構えたところはないものの、まさにホールへのトリビュートに恥じない内容になっていました。

急遽参加したふたりのギタリストも、音色を大切にしていたホールのプレイにならい、繊細なサウンドでひとつひとつのフレーズを大切に弾いていたのが印象的です。ひごろは激しいプレイとサウンドで個性を表出させることが多いコリエルもこの日ばかりは神妙な面持ちでストレート・アヘッドなプレイに徹していました。こんな彼の姿を観ることができたのも、ホールへの「トリビュート・ライヴ」だからこそのもの。

ホールの死は大きな損失ですが、彼のスピリットは多くのギタリストに受け継がれています。そのことを端的に伝えていたのが今回の「トリビュート・ライヴ」だったと思います。
【出演メンバー】
Ron Carter(b)
Larry Coryell(g)
Peter Bernstein(g)
2014年1月19日 「南青山 ブルーノート東京」 ファースト・セット