
今回は後半のトーク部分から紹介します。木住野さんのライヴが終わって、ここからは彼女とのトーク・タイムで、ステージにふたつの椅子が並べられました。これまた打ち合わせをほとんどしていません。最初に互いのボサノヴァ感みたいなものを話したところで、木住野さんが絶妙な質問をしてくれました。
「小川さんはジャズを聴くきっかけがボサノヴァだったんですね」
この質問から話は弾んでいきます。ぼくは中学2年のときに偶然『ゲッツ=ジルベルト』を聴き、それからボサノヴァに興味を持ちました。その先にあったのがジャズだったことからジャズ・ファンになったんですね。そんな話をしていたら、今度はこんな質問をされました。
「それで小川さんはドクターでもあるんですよね」
木住野さんはなんて優しいひとなんでしょう。本来ならぼくが木住野さんから話を引き出さなくてはいけないのに、反対にインタビューされている状態です。ここでもひとくさり自分の話をしてしまったので、今度こそ木住野さんの話を聞こうと思い、話ながらそのタイミングを図っていました。
すると、なぜか会場から笑い声があがったんですね。最初は気づかなかったのですが、ぼくの背後に藤田社長が立っていました。実は、この日はふたりのサプライズ・ゲストがいらしていたんです。このまま話が続くと、彼らを紹介する時間がなくなってしまうと判断したのでしょう。
ぼくもそのことはわかっていたんですが、時間的にまだ大丈夫と考えていました。ところが話は弾み、思わぬ時間が過ぎていたのですね。

そこでわれに帰ったぼくは、会場後方にいたジョージ・ムラーツさんを紹介しました。彼はオスカー・ピーターソンをはじめ、多くの一流ミュージシャンと共演してきたチェコ出身の世界的なジャズ・ベーシストです。今回はヘレン・メルリの伴奏で来日していました。木住野さんとは、彼女がプラハでレコーディングした『プラハ』のお膳立てをすべてしてくれた関係です。もちろんレコーディングでも素晴らしいベースを弾いています。
この日はサウンド・チェックのときから来ていました。ですから、本番が始まったら途中で帰ってしまうのではと思っていたのです。ところが終わったあともしばらく会場にいて、ぼくたちと歓談してから帰っていきました。楽しい時間が過ごせていたとしたら、こちらも嬉しいのですが。
さて、もうひとりのサプライズ・ゲストは小僧comの取締役である平松庚三さんです。この名前、いまでは知らないひとはほとんどいないと思います。今週は例の会社の株主総会が開かれますから、再び新聞紙上を賑わせるかと思います。
そもそも小僧comは、「人生の後半戦を楽しもうよ」との考えから平松さんが始めた会社です。それが、急遽例の会社の社長に推挙されたため、目の回るような忙しい日々を過ごすはめになりました。そこで、小僧comの運営は他に任せて、今回のイヴェントも開催されたというのがいきさつです。
しかし仕事人間である平松さんは、大変な遊び人間でもあります。この日も、朝からハーレー・ダヴィッドソンのツーリングで富士山のほうまで行き、そのまま会場に駆けつけてくれました。
木住野さんはそのことを知らされておらず、自分の背中のほうかときどき歓声をあげるライダーズ・ジャケットを着た怪しげなおっさんがいると勘違いし、「どうしよう」と思いながらピアノを弾いていたそうです。

その平松さんにも舞台に上がっていただき、しばらくは3人でトークをしました。はたからみれば、株主総会を控えて目の回るほど忙しい時期だと思います。しかし、忙しいのは構わないけれど、忙しいだけではいけないと平松さんは言います。こういう時間を過ごしてリセットしなければいい仕事はできない、という意見はまさに仰せのとおりだと思いました。
でも、遊ぶことも、努力をしないとできないのがぼくたちの世代かもしれません。努力して遊べというんじゃなくて、遊びの時間をつくるのには工夫(努力)が必要ということです。自分のことを振り返っても、遊ぶのは得意だった世代と思いますから。
ぼくも二足のわらじを履いているので、時間のやりくりが大変です。でも、そのやりくりに考えをめぐらすことも楽しさに繋がっています。
平松さんとお話をして、仕事のスケールはまったく違いますが、同じような考えで人生を過ごしてきたかただと感じました。ライヴ終了後も、平松さんはきちんといろいろなかたにご挨拶をされて、決して忙しそうなそぶりは見せません。それでも、その後はハーレーを駆って会社に戻っていったそうです。スイッチの切り替えの巧みさに、人生の極意を見せつけられたように思いました。
会場もそろそろクローズの準備に入りました。その後は、木住野さんのトリオと関係者、そしてスタッフ全員が集まり近くのイタリアン・レストランで打ち上げをしました。ぼくの経験からいうと、こういう会で全員が揃うことはまずありません。とくに、ミュージシャン・サイドの全員が集まってくれたことをとても嬉しく思いました。
次のイヴェントは24日の「ONGAKUゼミナール」です。昨日はがっくりきましたが、それまではサッカーのW杯を見ながら、本の執筆にいそしもうと思っています。
あと、8月12日にもうひとつトーク・イヴェントが決まりました。5月に銀座のバー「BAR Le sept」で「JAZZ探訪」を行なったのですが、その2回目です。詳細が決まりましたら紹介しますので、よろしければいらしてください。