「東京JAZZ」の合間を縫って、22日の土曜日にチック・コリアのインタヴューをしてきました。現在ユニヴァーサルから、単体のCDとして毎月チックのトリオ作品が発売されています。12月にはそれらと未発表演奏を纏めた『ファイヴ・トリオズ』というボックスセットが出ます。インタヴューはその解説書用です。
事前にチックから、インタヴューは90分とリクエストを受けていました。こういうのは非常に珍しいです。アーティスト側から時間を指定してくることなど、ぼくはこれまで一度も体験していません。それと、90分というのも異例の長さです。通常のインタヴューならせいぜい30分、長くても1時間です。90分という指定があったのは、よほどやる気になっているからでしょうか?
しかし、チックにはチックの理由があったのです。そもそも、場所をどこにするかで「アレレ」と思いました。「インタヴューは土曜のレイト・アフタヌーン、軽く食事のできるところ」というリクエストがありました。焼肉党のチックです。ホテルのコーヒー・ハウスなら、焼肉は食べられないけれど肉料理ならいろいろあるし。そう考えていたら、「サラダが食べれるところ」とのご所望が追加されました。
「いつもと違うじゃない」とは思いましたが、ホテルのコーヒー・ハウスならOKでしょう。それで場所を押さえてチックの到着を待ちました。レコード会社が間に入っているのに、なんでぼくが場所取りまでしなくちゃいけないのよ、と思いましたが、担当者はこのところ「東京JAZZ」で忙しく、テンパっていたので、まあいいです。
それでチックに会った途端、驚きました。痩せていたのです。昨年の「東京JAZZ」のときは太り気味で、明らかに焼肉の食べすぎでした。しかし、聞けばあれから30ポンドの減量をして、あと20ポンドは痩せたいというではありませんか。
「それで聞きたいことがあるから」というので、90分と時間を長めに言ってきたのでした。インタヴューはなかなか始められません。なにせノン・アルコールのお酒のこととか、焼肉はやめてヴェジテリアンになったから、美味しい炉端焼きの店はないかとか、そんなことばかり聞いてくるんですから。
それはいいんですが、「これ医療相談だから、有料ですよ、保険は入ってますか?」と、こういうときの決めゼリフを言うと、「ここはわたが奢るから」と冗談で返してきます。こういうチック、ぼくは大好きですね。
そのことより、恐れ多くも偉大なジャズ・ピアニストから相談を受け、それに対して軽口を叩いているぼくはなんて幸福者、あるいは神をも恐れぬ不届き者かとあとで思いました。
でも、チックが体のことを気にしているのは嬉しい限りです。彼は何年かに一度、食生活を変えます。以前はマクロビオティックにはまり、渋谷の自然食レストランに何度かつき合わされました。あのころのぼくは肉食人間だったので、ホント参りました。
肝心のインタヴューは、そのことが弾みとなって、ぼくの得意技である脱線話に次ぐ脱線話で、いろいろなエピソードを聞かせてもらいました。いつか本にしたいと思っている『ジャズ・ロックの真実』関連の話として、「スペイン」誕生についても語ってくれました。
このチックの代表曲、30分で書いたそうです。ただし、ラストの部分が気に入らず、一度書き直して、やはり最初のほうがいいと元に戻すのに30分、合計1時間で完成しました。有名なフレーズが3拍子と5拍子の組み合わせなのか4拍子なのかというぼくの質問に対しては、買ったばかりの自慢のペリカンのシャープ・ペンシルで譜面まで書いてくれました。チックの応えは4拍子なんですが、譜面は2拍子になっています。その心は、「これがわたしのヴァージョン」ということです。
ぼくはそういうところは抜かりがないので(?)、その場でマネージャーにこの譜面を本に掲載していいとの許可をもらっておきました。そういうわけで、簡単な手書きの譜面ですが、ここでも紹介しておきます。これ、考えてみたら家宝になりますよね。
ホットな話としては、現在ジョン・マクラフリンとのユニット結成や、アル・ディメオラ~スタンリー・クラーク~レニー・ホワイトでのRTF再結成、さらにはボビー・マクファーリンとジャック・デジョネットとの3人でコンサートを開く計画などがあるそうです。これらがひとつでも実現したら、楽しいですね。わくわくします。
明日は、「ブルーノート東京」でチックと上原ひろみさんのデュオを聴いてきます。去年の「東京JAZZ」で実現した顔合わせの再現です。今回はメールでやりとりしながら打ち合わせをしたそうです。昨日はリハーサルもやっています。で、明日のステージはヴィデオの収録もするそうです。どんな演奏が繰り広げられるのか、楽しいことがこのところたくさんあって、本当にぼくは幸せですね。こういう感謝の気持ちは忘れないようにしないと。