いやぁ、感激しました。昨日の「ブルーノート東京」。昨年に続いてサム&デイヴのサム・ムーアを観てきました。相変わらず声は出ているし、歌はうまいし。どうしてこのひとがコンスタントにアルバムを出さないのかわかりません。
ステージに登場しただけで、ひとのよさそうな笑顔にほっとさせられます。しかし、歌は筋金入り。ソウル・シンガーとして、ぼくは最高峰のひとりだと思っています。ジェームス・ブラウンとかスティーヴィー・ワンダーも好きですが、ぼくはアトランティックやスタックス系の、いわゆるサザン・ソウルに魅了されてきたひとりです。そういうわけで、サム&デイヴ、オーティス・レディング、ウィルソン・ピケット、アレサ・フランクリンといったひとたちが大好きです。
去年に比べるとサム&デイヴのレパートリーはあまり歌わないのが少し物足りなかったかな。それでもオーティス・レディングの「アイヴ・ビーン・ラヴィング・ユー・トゥー・ロング」とか、一番最後に歌った「ユーアー・トゥー・ビューティフル」とか、そしてもちろん「ぼくのベイビーに何か」とか、バラードが素晴らしかったですね。アップ・テンポの「ソウル・マン」や「アイ・サンキュー」も最高でした。
ステージを観ながら、ぼくは6代目三遊亭圓生や8代目桂文楽のことを思い出していました。このひとたちが高座にあがってくるときの立ち居振る舞い。サム・ムーアのステージングとは似ても似つかないんですが、それだけでわくわくしてくる気持ちには同じものを感じました。人間国宝っていうのは存在感が並じゃありません。
ただし威圧感とかカリスマ性じゃなくて、庶民的な親しみやすさっていうんでしょうか。サム・ムーアの存在感がまったくそれなんですね。南部の田舎にでもいそうな気さくで陽気なおじいちゃん。そのひとがひとたび舞台に上がったら、誰も寄せつけないほど素晴らしいパフォーマンスをしてみせる。そんな感じでしょうか。
昨日はとてつもないサプライズがふたつもありました。ひとつめはウルフルズのトータス松本さんが飛び入りをしたことです。去年のステージでは、ぼくの行った日じゃありませんでしたが、療養中の忌野清志郎さんが飛び入りしたという話を聞いていました。それで「スペシャル・ゲストがいます」というアナウンスを聞いて、「やったぁ」と思ったんですが、ステージに出てきたのはトータスさんでした。そういえば、似たひとがぼくのふたつ隣のテーブルに、関係者と思しきひとたちといたんですね。
これがサムとの息もピッタリで、最高でした。こちらも気分が舞い上がってしまい、いったい何を歌ったのかまったく思い出せません。とにかく、トータスさんが水を得た魚のようにソウル・フィーリング全開でステージ上を跳ね回っていたことは覚えています。
そして、終盤に再び「もうひとりのサプライズ・ゲスト」と呼び込まれて清志郎さんが出てきました。すっかり元気な様子で、トレードマークの高い声もよく出ています。清志郎さんといえば、メンフィスでブッカーT&MG'sとレコーディングをして、メンフィスの名誉市民にもなっているひとです。ここでサム&デイヴの歌でもやってくれるのかと期待したんですが、そうはいきませんでした。ふたりで掛け合いをして、メロディらしきものはほとんど登場しない共演でした。
それでも、こういうセッションは本当に楽しいですね。トータスさんにしても、清志郎さんにしても、サムと一緒のステージに立てたことに感激していることがストレートに伝ってきます。
ところで、ぼくの自慢はサム&デイヴとウィルソン・ピケットがほぼ全盛期だった時代に来日したステージを目の前で観ていることです。それと、留学時代にジョン・ベルーシの追悼ライヴにサムが出て、それも本当に目の前、ステージの真下にいるぼくを指差しながら(と勝手に思っている)、彼が「アイム・ソウル・マン、ユー・アー・ソウル・マン」と何度も歌ってくれたことです。
今回の「ブルーノート東京」は1日1回公演です。9時から始まったライヴは11時前まで続きました。最初の2曲と、途中でバック・コーラスの女性に1曲歌わせた以外は、すっと素晴らしい歌を聴かせてくれました。まだまだ元気なサム・ムーアです。そろそろ次のアルバムを出してくれないかしらと思いながら、ずっとサム&デイヴの歌を車の中で口ずさみながら家に戻りました。