昨日は楽しみ半分、仕事半分で「銀座ジャズ」を観てきました。4時から「時事通信ホール」で開かれたポーレット・マクウィリアムスのライヴです。
ポーレットは、ジャズ・ファンだとちょっとご存知ないかもしれませんね。このひと、実はすごいキャリアの持ち主です。チャカ・カーン&ザ・ルーファスというコーラス・グループを知っていますか? チャカ・カーンはたぶん知ってますよね。マイルスとプリンスが彼女のアルバム『Chaka』で、最初で最後の共演(オーヴァーダビングですが)をしています。そのルーファスの初代リード・シンガーがポーレットでした。上はその時代の写真です。
その後、彼女はクインシー・ジョーンズのオーケストラに入って、1973年にはブリンキー・ウィリアムスの名前で来日しています。そのときに、やはり日本に来ていたサラ・ヴォーンが飛び入りして一緒に歌ったライヴを観たことがあります。そんなことを思い出しながら、ポーレットのステージを観ていたら、途中で彼女もそのことに触れて、サラに捧げるといって1曲歌ってくれました。
ポーレットは、その後、マーヴィン・ゲイやルーサー・ヴァンドロスのバック・コーラスを長らく務めてきました。とくにルーサーとの共演は彼女のキャリアに大きな影響を与えたようです。
昨日のステージでは、トム・スコットをゲストに迎え、ピアノがナット・アダレイ・ジュニア、ベースが井上陽介、ドラムスが大坂昌彦という編成でした。ナット・アダレイ・ジュニアは、もちろんナット・アダレイの息子さんです。彼が現在のポーレットの伴奏者で、このひとはルーサー・ヴァンドロスの音楽監督を20年以上も務めてきたそうです。
ルーサーが亡くなったあとは、ポーレットと組むことが多く、彼女が最近出したソロ・アルバム『Flow』のプロデューサーも務めています。それで現在の彼女はソウル寄りのジャズ、あるいはジャズ・オリエンテッドなソウル・ミュージックといった感じの歌をうたっています。
そして、もうひとりの目玉であるトム・スコット。ライヴ終了後に彼のインタヴューをしました。来年の1月にキャノンボール・アダレイをトリビュートした新作が出るからです。ナット・アダレイはキャノンボールの弟ですから、そのジュニアはキャノンボールの甥になります。そのひとと、今回は図らずも東京で共演ということになりました。
インタヴューではジュニアのことも聞きました。トムが彼の存在を知ったのはレコーディングを終えたあとだったんですね。それに付随して、面白い話も教えてくれました。1970年代のことです。トムとポーレットは何度かデートしたことがあるそうです。当時はどちらも独身だったと、顔を赤くしながら、どうしてぼくにそんなことまで話してくれたのかわかりませんが、照れながら語ってくれました。
彼女はニューヨーク、自分はロスだったため、この付き合いは自然消滅したようです。そしていまから半年前、トムは偶然ポーレットがサンタモニカのジャズ・クラブに出演していることを知ります。そして、再会。そのときにジュニアとも知り合ったそうです。
今回の来日は、そういう縁も重なってこのメンバーになりました。トムのインタヴュー後に少しだけポーレットにもインタヴューをしたんですが、彼女もトムと再会できてとても嬉しそうでした。そして、こんなことも教えてくれました。現在は彼女もロスに住んでいるそうです。といっても、下衆の勘ぐりみたいな関係ではありません。
おたがい、そこそこの年齢になると、昔のほろ苦い体験(彼らがそうかは知りませんが)もスウィートな思い出に変わります。何十年ぶりかの再会って、とくにそんな気持ちになりませんか?
ぼくにも、この数年、何十年ぶりかの再会がいくつかありました。そういうときは、瞬時に高校のころや中学のころの自分に戻れます。一緒に遊んだり勉強したりした仲間が、その後、何十年かそれぞれの人生を歩んで、いま目の前にいる。きっといろいろなことがあったと思います。それでも、すぐに昔の自分たちになってしまうところが嬉しいですね。
こういう喜びは、60近くになってやっとわかったことです。それを思うと、年を取るのも悪いことじゃありません。幸い、ぼくの友人はみんないい年の取り方をしているので、会えばいつでも無邪気な気分になれます。
トム・スコットの新作『CANNONBALL RE-LOADED』ですが、メンバーがすごいです。テレンス・ブランチャード、ジョージ・デューク、マーカス・ミラー、スティーヴ・ガッド、そして2曲にナンシー・ウィルソン(彼女が参加した理由もわかるひとにはわかると思います)、あと、ラリー・ゴールディングスのオルガンも曲によっては加わっています。
メンバーが全員そろってのツアーは難しいと思いますが、来年は是非、このグループで日本に来てくださいと頼んでおきました。機会があれば、「東京JAZZ」のプロデューサーにでも猛烈に推薦しておこうと思います。