その昔、米軍ハウスに本気で住みたいと思っていた時期があります。もう米軍ハウスなんて知らないひとのほうが多いと思いますが、狭山や福生などの米軍基地に勤務する士官クラスのひとたちが住んでいた家のことです。
それがあるとき、日本人に売り出されたり、貸し出されたりするようになりました。そこは、中学生のころに『サンセット77』だとか『カレン』なんかで観て憧れたアメリカの家そのものでした。本気で大学の友人4人と借りようと思い、福生まで観に行ったほどです。しかし修理が必要だったり、予算が合わなかったり、そして一番のネックが大学に遠かったりで、諦めざるを得なかったのです。
なぜそこに住みたかったのかと言えば、それはアメリカへの憧れと共に、多くのミュージシャンが住んでいたからです。細野晴臣、大瀧詠一、麻田浩、南正人といったひとたちが、そこから新しい音楽を発信していました。いっぱしのミュージシャン気取りだったぼくもそこに住んでみたい──根が単純なもので、そう思っていた次第です。
でも、憧れから何かが始まることだってあります。もしあのとき米軍ハウスに住んでいたら、いまごろ何をしていたかなぁ、なんて思っています。
そして近くに狭山の米軍ハウスがあった稲荷山公園で、昨日(9月3日)と今日、「Hyde Park Music Festival 2005」が開催されました。狭山にはジョンソン基地があり、そこの米軍ハウスには細野晴臣をはじめいろいろなひとが住んでいました。そのひとたちが中心になって、とても懐かしい、そして当時非常に刺激を受けたミュージシャンたちによるフェスティヴァルが行なわれました。
ロック・フェスティヴァルなんて、どれくらい久しぶりなんでしょう。覚えていないくらいだから、相当に久しぶりだったことは確かです。40分ずつのステージで、フェスティヴァルは1時から9時まで、ぼくは初日の2時過ぎごろから8時近くまで会場にいました。
西武池袋線の稲荷山公園駅から徒歩1分というのがいいです。駅前の公園が会場です。そんなに広くない場所に、どのくらいのひとが集まっていたでしょうか? 1000人はいなかったかもしれません。でもこのくらいがほどよくて、会場には和やかな空気が流れていました。
ぼくが着いたときはテキーラ・サーキットという3人組が出演中で、カントリーにソウルっぽい味わいが加わったいい感じのコーラスを聴かせていました。彼らもそうですが、フェスティヴァルに出演しているアーティストの大半はぼくと同世代かほんの少し年上のひとたちです。

いまだにかっこのよさを失っていない鈴木茂や、声だけを聴いていれば永遠の少年を思わせる(みかけはふつうのおっさんになっています、ごめんなさい)を保っているブレッド&バター、高校の先輩でもある森山良子、小気味のいいカントリー・ロックを聴かせてくれたセンチメンタル・シティ・ロマンス、そして去年は下北

沢のライヴ・ハウスまで聴きにいったラリーパパ&カーネギーママ(このグループは若いです)がバックを務めたマーク・ベノ(これまた普通のおっさんになっていたところが寂しくも嬉しい)。
目当てはこのマーク・ベノです。その昔、散々聴いたのがレオン・ラッセルと組んで吹き込んだ『アサイラム・コワイアII』というアルバム。ジャケットの右側がマークですが、何と普通のひとになってしまったことか。
でも、それでいいではありませんか。ローリング・ストーンズのようにいまだにロック・スターのオーラを発しているひとも凄いですが、年齢を重ねるにつれて若いときのとんがりがなくなって、いい雰囲気で好きな音楽をマイ・ペースでやっているアーティストっていうのも大好きです。そんなひとたちのオンパレードになっていたのがこのフェスティヴァルでした。
小坂忠のステージを観ないで帰ってきたのが心残りでしたが、その思いは来年のフェスティヴァルまで稲荷山公園に置いておきます。年を取るのっていやだなぁと思うことが多い昨今ですが、昨日は久しぶりに年を取るのっていいなぁと思えた1日でした。
マーク・ベノと