ハード・バップは簡単に言うならビバップの発展形。ビバップに一層躍動的なビートやリズムを加え、さらにモダンな処理の施されたハーモニーとブルージーな要素を強調してみせたのがこのスタイルだ。
ハード・バップはそれだけにとどまらず、さまざまな音楽と結びついてジャズを拡散させていく。むしろ、そちらの方が重要度では上かもしれない。1960年前後から登場してくるファンキー・ジャズをはじめ、フリー・ジャズ、ジャズ・ロック、ソウル・ジャズ、さらにはフュージョンの先駆的な演奏にまでハード・バップの影響はおよんでいる。
★キーパーソン:マイルス・デイヴィス

イニシアティヴを取ったのはトランペッターのマイルス・デイヴィス。
ビバップが全盛だった1951年に吹き込んだ『ディグ』で、マイルスはビバップのリズムをもっと複雑にした斬新なビートを提示する。このレコーディングで自信を得た彼は、クールなサウンドの追求はひと休みして、そうした従来にないビート感覚を試していく。
一方、それまでとは異なるリズムをマイルスから伝授されたアート・ブレイキーとホレス・シルヴァーは、そのアイディアを発展させて『バードランドの夜』を録音。歴史的な観点から言えば、こちらが本格的なハード・バップを最初に記録する作品となった。
しかしライヴの現場では、すでにマイルスや彼の周辺にいたミュージシャンが、ビバップから一歩踏み出す演奏を行なっていた。そして1954年にレコーディングされた『バードランドの夜』以後、ハード・バップに関するコンセプトは一般的なものになっていく。